100人のプロの82人目のプロ‼️

“百聞は一見にしかず”

とはこのことであろう。


私が昨日体験した出来事がまさに、この言葉の通り。

それはよく晴れた日の出来事。

生徒がいつものように教室にきます。

その生徒の表情は暗く、斜め下を見て何か悩み事でもあるかのような雰囲気。

「どうした?」

と尋ねたところで、なかなか心の中の言葉は出てきません。

言葉にできないのか。

まだ、私に心を開いていないだけなのか…。

本人にも分からないその感情の中で、特に意味を成さない私の言葉が部屋の中で響きます。

生徒の表情は変わりません。

しかし、机の上に置かれたものに目を向けていました。

気づいた私は、その新聞紙に包まれビニール袋に入れられている中身について語り始めます。

生徒の表情は変わらないものの、視点は一点を見つめます。

直接見たそうにする生徒。

もう少し語りたい私。

渋々ビニール袋から新聞紙で丸められたものを取り出し、慎重に新聞紙をめくります。

中身は“盆栽鉢”。

取り出した盆栽鉢は、まるで金属の銅の器のような、少し赤みがかった茶色い鉢。

盆栽鉢界の第一人者「盆栽鉢のプロ」中野行山さんの作品です。

世界から求められる行山さんの作品。

鉢を販売している人ですら、触れたことがないというくらいに貴重なもの。

そんな中、私は行山さんに「子どもに見せたいのですが、私でも買わせていただけるものはありますか?」と図々しく尋ねると…

目の前にあった鉢を取り「これ貸してあげるから、持っていくといいよ」と言い、用意してくださいました。


「先生!

触ってもいいですか?」

本物にしかない輝きを前に、その子どもは動き出します。

「わ〜」

その声と共に、笑顔が溢れます。

行山さんの作品がその子の心を救いました。


私が生徒に自慢します。

「行山さんはね、常滑の“宝”なんだよ。」

◯子どもの頃の夢

「特に考えていなかった」


行山さんは今年で84歳。

しかし、私が想像する84歳とはだいぶ違っていました。

パワフルでユーモアに溢れてて。

作品を焼き上げる際、耐熱のプレートを重ねていくのですが、それがとにかく重い。

コンクリートブロックを2つ持ち上げたくらいの重さがあります。

行山さんは何層も重ねていきます。

パワフルな行山さん。

子どもの頃は、ガキ大将だったそうです。

フナを釣ったり、カラスを飼うために捕まえたり…

自然の中で多くを学び、多くの時間を過ごしていました。


◯今の仕事に就いたきっかけ

「奥様の言葉」


行山さんの家の近くには神社があります。

その神社の境内でメジロという鳥を捕まえようと仕掛けをつくっていました。

境内の木によじ登り、仕掛けをセットしようとした時、大地が揺れます。

地震です。

大きな揺れは神社の灯籠が倒れるほど。

仕掛けに夢中になっていた行山さんの背中めがけて灯籠が倒れてきます。

その衝撃に、気絶してしまいました。

悪さをしていたという自覚から、意識を戻し帰宅してもご両親に相談することはありません。

痛くても我慢。

場所が場所だっただけに、言い出せなかったのです。


体力に自信のあった行山さんですが、中学生の頃から思うように体を動かせなくなっていました。

病院通いを余儀なくされます。

繰り返す通院生活。

高校は入学したものの、中退せざるを得ません。

通院生活は20歳まで続きました。

可能性を広げられるはずの10代を充分に過ごすことのできなかった行山さん。

仕事を“やりたいこと”ではなく“やれること”を視野に探します。

それで出逢えたのが大型トラックの運転手でした。


就職して4年、生涯のパートナーである奥様とご結婚。

順風満帆です。

同時に自分のスキルを磨き続ける行山さんは、新たな分野として、観光バスの免許を取得しました。

この出来事を行山さんはユーモアをもって話してくださいます。

「観光バスの免許を取ったのは、バスガイドさんが横にいていいなと思ってね」

真剣に聞きメモを取る私たちに奥様は

「冗談ですよ!」

その場にいるみんなの笑い声が響きます。


観光バスの免許をとった頃、親戚の方が車の事故に遭ってしまいます。

立て続けにお父様のご友人も自動車事故。

度重なる自動車事故に、運転を仕事とする息子の身を案じたお父様。

運転手以外の仕事を探すようお願いされます。

何か別の仕事をしてみたいと思っていたこともあって、別の仕事を考えます。

考えついた仕事が“盆栽鉢職人”。

しかし、盆栽鉢については何も知りません。

身近に盆栽鉢をつくっていた人がいたわけでも、趣味でやっていたわけでもありません。

強いていうなれば、お姉様のご主人が陶芸をやられていたくらい。

それでも盆栽鉢職人になることに違和感がなく、まるで初めから決まっていたかのように自然と奥様と一緒に歩みを進めていきます。

何をつくればいいのか!?

どんな感じにつくればいいのか!?

全てが手探りです。

時には盆栽園に行き、主人に聞いてみたり、手に取ってみたり…

奥様と一緒に何軒も何軒もまわります。

イメージできても、それを粘土で形にして焼き上げていくのだって初めて。

頼る師匠はいません。

同業者は土の配合すら企業秘密。

今までの貯蓄で生活を回していますが、収入がなければ資金は減っていく一方。

焦る気持ちを抑えながら試行錯誤の末、焼き上げる前の鉢ができます。

ようやくたどり着いた工程。

窯に1000度以上の熱がこもります。

「パチ  パチン」

窯の中で爆(は)ぜる音が響きます。

鉢が割れるような音も。

鳴り響く度に不安が募ります。

何時間も熱い窯の前で祈ります。

いよいよ窯出しです。

窯の温度を冷まし、恐る恐る扉を開けます。

見ることを避けてしまいたくなる思いの中、全ての作品を見渡します。

窯に入れた全ての作品は、熱に耐えきれずに割れていました。


“これからどう生活していくか!?”


生活への不安が頭から離れません。

「家族のために!」という責任は、焦りと不安で押し潰れそうです。

肩を落とす行山さんを前に、奥様が言います。


「生活は、私に、任せてください」


奥様の言葉から感じる底力に、行山さんは救われます。


時と共に変化していく鉢。

樹木が健康に育つ鉢。


行山さんの鉢には、誰も真似できない技術が込められています。

経年変化によって深みを増す行山さんの鉢の価値は、愛好家の間で噂されるようになっていき、今や世界一の盆栽鉢作家です。

行山さんは強く私に言います。

「妻の言葉で、行山は生まれたんです」

ご夫婦の歩みが、唯一無二の作家を誕生させました。

◯今、自由に選べるとしたら何の仕事をしてみたいか

「少しでも人に役立つ仕事をしたい」


もっと自由に若い世代が新たなものを生み出せるよう、行山さん自らさまざまな挑戦をしていらっしゃいます。

挑戦の一つである“変わり鉢”。

それをまとめた冊子のサブタイトルに

「次世代の盆栽愛好家に向けて」

と書き記します。

この言葉を見た生徒が、「僕のことですかね!?」と嬉しそうに言ってきた表情が、とても印象的でした。

◯落ち込んだ時、どう乗り切るか

「人生は心の修行」


10年ほど前、落ち込んでしまう出来事があったそうです。

どうしようもない問題に心は疲れ、体にも不調が出てくるように。

そんな様子をみかねたご友人が、四国のお遍路の旅に誘ってくださいました。

春と秋、2年かけて88カ所を巡ります。

お遍路の旅の中、高知県の室戸岬にあるお寺のご住職からお話を聴きます。

真言宗の開祖、空海の悟りを開いた時のお話でした。

空海は、青年時代に御厨人窟(みくろど)という洞窟の中から見える空と海を見ながら修行していたと言われています。

このお話に、行山さんがふと自分を振り返ります。

“自分は「炎」と「土」に向き合ってきたではないか”

ご住職の空海についてのお話は、自分を照らし合わせるきっかけとなりました。


悩むこと、落ち込むことも心の修行。

そう思うと、心はとても穏やかになったそうです。


◯未来ある子どもたちへのエール

「苦しい時にこそ成長できる。

 私の先生は“失敗”です。」


灯籠が倒れて背中の骨が曲がり、思い通りにならなかった10代。

当時は悔しい思いを何度もしました。

しかし、この全ての出来事は、当時は気づかなくても、今となっては大切な経験になっているとおっしゃいます。

何一つ欠けても、今はなかったんだと思うそうです。

活路を見出すためのヒントは、立ち止まるからこそ気づけます。


挑戦を恐れてはいけません。

失敗から逃げてはいけません。


◯インタビューをして

今の学校はルールを決めたがります。

「これはだめ」

「あれはダメ」

表向きには

「挑戦することは大切です」

と言ってみるものの、全ての出来事に報告と検討を重ね、最終的に“様子見”で終わらせてしまいます。


うまくいかないことだってあります。

失敗することだってあります。

でも…

失敗しないことよりも、失敗から何を学ぶかのことの方が重要なのかもしれません。

できることだけから選ぶ未来に、どんな面白さがあるのでしょうか。

どんな発見があるのでしょうか。


つまずいたっていい。

ミスしたっていい。

そこから学んだ、あなたたちは、未来にはもっともっと強くなっています。


行山さんが記念品でつくった湯呑みに毎朝熱いコーヒーを淹れます。

それでいただくコーヒーがとても美味しいんです。

湯呑みを眺めながら行山さんが言ったことを思い出します。

「そろそろね。真剣に鉢づくりをしようと思ってね。

 今までは自由につくりすぎていたからね。

 本気でやっていくよ。」

世界一の盆栽鉢作家、中野行山さん。

妥協を許さず、こだわり続け挑戦し続ける姿は、未来ある子どもたちに見てほしい姿。


心の筋トレ部

教員であり公認心理師である片野とさとぶーが「心の筋トレ」を実務で実践させていただいています✨皆さんの自己免疫力💪を上げ‼️予病に貢献できるよう、情報発信していきます✨

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