100人のプロの87人目のプロ‼️
うそ。
ウソ。
嘘で溢れる世界。
何が本当で、何が作り話なのか…。
話している本人にもそれが本当なのか、嘘なのか、わからなくなるほどに複雑になってしまって。
AIの技術革新の波は急速に進み、私自身その技術に埋もれてしまうほど。
文章をつくってくれるAI。
動画や写真をつくり上げてくれるAI。
働き方改革という名前のもと、学校の多くは夕方には留守番電話に切り替わります。
相談したくても、悩んでいても話すのは次の日。
それが週の終りであるのなら、休みが明けた日。
職員室の灯りはつき、見覚えのある先生たちの車は止まっています。
それでも流れてくる留守番電話。
知った先生の声に安心するものの、次の日にかけて欲しいという録音の音。
どれほどアレンジを加えようと、機械音のように流れ去っていきます。
働き方、効率化。
それらの言葉が人と人との繋がりを希薄にしてしまっているのかもしれません。
一体人間とは何なのでしょうか。
便利と引き換えに様々なものを放棄した人間。
目の前にいるのに失われる会話。
相手を想い、微笑みかける行為はあまり見かけなくなりました。
携帯ばかりを眺める私。
あからさまに嫌な態度をとるのは犬たち。
今、この瞬間を大切にしている犬たちにとって、私のいつでもできる行為は嫌われます。
帰宅すれば全身で喜びを表現してくれ、体調がすぐれなければ寄り添ってくれる犬たち。
ペットを飼うことは“効率”とは無縁の世界。
しかし、スタンプ一つでは表現し得ない心が、犬たちによって満たされていきます。
おもちゃを咥え、あどけない姿に自然と笑みが溢れ、疲れてぐっすり寝る姿に微笑みかけます。
言葉を話さずとも、分かる彼らの心。
人との関係で“悟る”機会を失っている分、彼らに心を教えられます。
今回のプロは、そんな彼らの代弁者、「トリマーのプロ」前田佳英さんです。
人見知りする犬たちも、前田さんの前では素直なワンちゃんに。
ホームページで2069年10月まで自身の人生の軌跡を記すユニークな前田さん。
人や犬たちの架け橋となってくださる方です。
◯子どもの頃の夢
「ムツゴロウ王国に行きたかった」
ムツゴロウ王国といえば畑正憲(ムツゴロウ)さんが創設した動物と触れ合う施設です。
動物のテレビ番組でよく特集されていました。
番組では毎回、自由に行き来する動物たちの豊かな姿が映し出され、動物好きの聖地となっていました。
物心ついた時から動物好きの前田さん。
番組はもちろんのこと、世界の犬が紹介されている図鑑は愛読本として欠かさず見ていたそうです。
◯今の仕事に就いたきっかけ
「幸せが伝播していく様子」
友人と遊んでいるよりも、犬や動物たちのお世話をしている方が楽しかった学生時代。
学校は好きな場所ではありませんでした。
高校では昼まで家で勉強して、午後から登校。
当たり前のように流れていく毎日。
初めての出来事なはずなのに、予想できる一日の流れ。
前田さんにとって学校は、行く意味を見出せない場所となっていました。
「学校に行かない」ということを肯定したいわけではありません。
ただ学校に、心揺さぶられるものがなかったのです。
“みんなと何か違う”
と幼少期に先生から指摘を受けたことがありました。
“周りと同じであることを恐れなさい”
という言葉に出逢えるのはまだ先のこと。
学生の頃は、夢を抱くわけでも目標を立てるわけでもなく、ただただ生きているだけだったと当時を振り返ります。
大学に進学して、就職活動して…
“ただ生きているだけ”という時間の中、ふと
「こんな人生でいいのか!?」
と立ち止まります。
“犬が好き”
“動物が好き”
そんな真っ直ぐな心を抱いていた子どもの頃。
いつしか、「安定した収入の得られる仕事」「世間体のいい職業」を探すようになっていった自分を振り返ります。
何をしたいかではなく、どんな安心が得られるか。
まだ見ぬ未来を想像し、保険をかけるような人生の選択。
そんな自分に戸惑います。
大変でも、安定していなくても、好きなことに全力で向き合える仕事…そんな人生でもいいのではないだろうか。
前田さんは就活をやめ、近所で有名なブリーダーさんの元へ。
好きだった犬たちと関わるお仕事。
予測できない犬たちに、充実した日々を過ごします。
その後、長野県にいらっしゃるドッグショーの先生のもとへ。
ドッグショーの世界は甘くはありません。
我が子のように大切に育てられている犬たち。
発表会のような晴れ舞台では、誰もが「我が子が一番」と優勝を狙います。
繊細で、丁寧で、細かい作業が求められる中、洗い方、ふき具合、乾かし方のどの工程でも一切の妥協は許されません。
弟子が作業している中、先生は遠くからその不十分さに気づくと、やり直しをさせます。
ただ、“洗う”ではないのです。
長く時間をかければ、犬にとっての負担も大きくなってしまいます。
なるべく負担を減らすため、犬たちとのコミュニケーションは欠かせません。
シャンプーの技術だけで8年はかかるといわれているほど。
技術は教えられるものではなく、見て、学んで、挑戦して、反省して…。
その繰り返しが徐々にスキルアップへと繋がっていきました。
シャンプーだけが仕事ではありません。
ご飯や散歩など基本的なお世話も大切な時間です。
だから年間を通した休みは、お盆とお正月のみ。
24時間、犬たちとの生活。
想像しているよりも厳しい世界に、逃げ出す人もいたそうです。
前田さんはその状況で4年間勤めます。
さらに様々な技術を学びたいと静岡県へ。
どんなことも、誰からも学ぼうとする精神が確かな技術へと変わっていきました。
ある時、毛玉まみれのプードルをトリミングする機会がありました。
精一杯に、その子をキレイにしていくと、なんだかそのプードルも嬉しそう。
飼い主さんがお迎えに。
我が子を見た飼い主さんの第一声は
「キレイになったね〜」
と満面な笑顔でした。
笑顔で帰っていく飼い主さん。
帰宅した後、きっと家で待っていたご家族もまた、その子を笑顔で迎えるはず。
翌日も、気持ちよく過ごすその子は、また家族を笑顔にするに違いありません。
そのちょっとしたことの幸せが伝播していく様子。
そうした体験がトリマーへの魅力に変わっていきました。
もともと仔犬たちが、金額として数字で表現されていくことに嫌悪感を感じていた前田さん。
やむを得ないことだとは分かっています。
「譲って欲しい」
と言われれば、ただで渡すわけにはいきません。
大切に育ててほしいという願いも価格に込められています。
子どもの頃から犬のことを大切にしてきた前田さんにとっては、それでも受け入れづらいものでした。
店舗の店長やトリミングの責任者を任せられた中で、様々な経験がブリーダーではなく、トリマーへの気持ちを固めていきました。
静岡でも4年間学んだ後、ついに独立します。
幸せの伝播を想像しながら。
犬たちの喜びのために。
その家族の笑顔のために。
◯今、自由に選べるとしたら何の仕事をしてみたいか
「世界が循環しているものの一つになりたい」
笑顔が伝播していくように、繋がっていく存在。
きっかけともなりうるし、結果ともなりうる循環の中の一つ。
農業なのか、なんなのかははっきりとは表現できないけど、漠然とイメージする前田さん。
個人で行き止まりになるようなものではなく、皆が循環していく社会。
その社会の中心には「思いやりの心」があるのかもしれません。
◯落ち込んだ時、どう乗り切るか
「先を見ることが一番」
お客さんに「なんか違う」と言われると、落ち込んでしまいます。
同時に、そのままでいいとは思っていません。
より犬たちの負担を減らしながら、犬の言葉なき声に意識を向けながら、完成に近づけようと、未来を見つめます。
落ち込んだ時だからこそ見える未来。
過去を後悔で終わらせないために、未来に向け努力を続けていきます。
◯未来ある子どもたちへのエール
「経験に“いい”も“悪い”もない。
そういう経験をしたのは君しかいない。」
学校に行かないという経験。
いじめられたという経験。
勉強ができないという経験。
人それぞれ、様々な経験をして年齢を重ねていきます。
どれほど似たような経験であっても、他人と全く一緒ということはありません。
あなたが歩んでいく人生に、それらがどんなふうに生かされていくのか、重要となるのか…。
あなたの未来だけが知っています。
全ては大切な経験です。
◯インタビューをして
学校で子どもたちが夢を語ります。
こんな仕事をしてみたい。
あんな職業に就いてみたい。
その純粋な気持ちに水を差すのは学校。
「もし〇〇になったらどうするのか?」
「今でもできていないのに、できるようになると思う?」
教員になることしか経験していない私たちが、全てを経験したかのようなしたり顔で語ります。
反対のための反対は尽きることがありません。
失敗をさせない教育というのは、言い換えれば挑戦をさせない教育。
落ち込むことをさせたくないというのは、子どもたちの未来を見ていないのと同じこと。
子どもの未来は6年間や3年間ではありません。
もっともっと先の未来まで続きます。
その中で、どんなことが起ころうとも、起き上がれる力を育むことが教育のように感じます。
経験を“いい”“悪い”と判断せず、子どもたちの可能性を広げてあげたい。
人工知能にも優る、固定概念にとらわれない子どもたちの心を、もっと大切にしたい。
完璧を求める子どもたちの挑戦が、この世界を明るくしていくのだと信じています。
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