100人のプロの25人目のプロ‼️

「其(そ)れ恕(じょ)か。己の欲せざる所は、人に施すこと勿れ」


この言葉は孔子に「人の生き方で大切なことはなんでしょうか」と弟子が尋ねた際に返した言葉です。

自分がやられて嫌なことは他の人にもやってはいけないと言う人間の基本的なあり方。

当たり前で純粋なあり方なのに、毎年どの学校でも伝えているくらい意外に難しい姿。

そして何度も「其れ恕か」の精神に触れたお話をして下さったのは「お酢屋さんのプロ」Mさん。

「其れ恕か」とは「思いやり」のこと。


私は「お酢」と言えば「体が喜ぶもの」とすぐに連想します。

今年の夏は特にお世話になりました。

お酢を炭酸で割って暑い日に頂くと疲れも一気に吹っ飛びます。

お世話になってきた「お酢」。

気になって調べてみると製造方法にも様々な種類があるとか。

その中で、Mさんの「お酢」は昔ながらの伝統的な技法でつくり出していました。

大量生産、大量消費を基本とせず、一つ一つの質をこだわりぬいたお酢。

沢山お話しさせて頂きました。


◯子どもの頃の夢

「航空管制官」


中学生の頃までは…

とおっしゃっていましたが、今も憧れがある様子でした。

「家業」があるから諦めたのではなく、英語が苦手だったこと、視力が悪かったことで別の道へと進んだそうです。

もし英語が堪能だったのなら、私はお酢についてお話を伺うことはできていなかったかも知れません。


◯今の仕事に就いたきっかけ

「家業への誇り」


家を継ぎなさい。

その言葉は一切言われなかったそうです。

Mさんで3代目になります。

学生の頃から「継ぐんだろうな」と言うイメージは持ち続けていたのですが、それを周りから強制されていたわけでも決してありません。

自分がそのように感じていたのです。

大学は農学部に進学をし、専門的に食品への知識を身につけていきます。

お祖父様が大手のお酢屋さんの研究部署で勤務されていたらしく、そこで「一国一城の主人になりたい!」と決心して独立されました。

その志を継いでいくMさんのお父様は、お祖父様のノウハウを活かし加工食品を手がけていきます。

その加工食品が大ヒット。

Mさんの会社の看板商品へとなっていきました。

「お酢屋さんだからといってお酢だけを製品を作り出せば良い、という訳ではない」

こうした柔軟な思考が会社を支えていきます。


Mさんは「まずは他人の飯を食え」とお父様に言われます。

大学卒業後、自分の会社へヒラで入社したとしても、周りはどうしても遠慮してしまいます。

それは同時に、働くことの大変さに気づくことができないかもしれません。

もちろん、「次期社長」と言う責任において普通の社員よりも様々なプレッシャーや色眼鏡で見られると言うそれはそれで大変な思いをすることもあると思います。

いろんな想いを込めて、お父様は他の会社に勤務することの重要性を分かっておられたのだと思います。


昔はMさんの会社のお酢は「ツン」とくるキツさがないことから、

「一般的なお酢は一杯で大丈夫なのに、おたくのお酢はもう半杯足さないといけないから不経済」

と言われてきたそうです。

「薄い」のではなく、醸造方法によって「まろやかさ」を生み出しているのです。

当時は好評ではありませんでした。

この文章を読んで下さっている方の中でも

「お酢」

と言う字を見て口の中の唾液が出てくる現象になっているのではないでしょうか?

「酢」はそんな酸っぱさを連想させます。

しかし時代が変わりました。

健康への意識が高くなってきたのです。

今では「お酢」を飲むと言う文化があります。

そして今では、

「おたくのお酢だと、うどんの汁まで全部飲めるからいい」

と言われるようになってきました。

「いい!」

と思ったことを貫いてきた結果です。

「お酢」のツンとする刺激を求められ、それに応えるためにこだわりを捨ててしまえば、Mさんの「お酢」はありませんでした。

こだわりを守り続けたお祖父様から続く会社をMさんは継いでいます。

「伝統の方法を守っていかないと」

そんな責任感を抱きながら。


私は大手のお酢屋さんが近くにあるにもかかわらず、全く別で取り組まれていることが尋ねてみたかったことの一つでもありました。

率直に尋ねます。

「大手のお酢屋さんに対して勝ちたいとか思いますか?」

Mさんははっきり言いました。

「絶対に勝てない。」

断言するMさんに驚きました。

会社を経営されている方は「1番」を狙うものと浅すぎる私の頭で思っていたからです。

「勝てない勝負はしない。99:1で『1』の可能性があるなら勝負する。でも、100:0だからね。」

笑顔でサラッと。

従業員の方の生活もある中で、勝てないと分かっている勝負には何も生み出さないということなのでしょうか…。

しかし…

Mさんは言いました。

「どこの酢よりもうちが絶対に美味しい」

その言葉は私の「勝ちたいと思いますか?」の質問がいかにレベルの低いもので視野の狭いものかを知らせてくれました。

何を持って「勝ち」と捉えるのか!?

売り上げなのか!?

シェア率なのか!?

満足度なのか!?

味なのか!?

こだわりなのか!?

大手にしかできないことがあります。

しかし同時に、大手だからできないこともあります。

戦後の日本で、食べるものが少なく、ただお腹を膨らませることを考えていた時代と、健康志向で生産地や成分表を気にして買う時代では求められているものは全く変わっています。

大量生産のできる大手には、一つの製品に時間や単価をかけることはできません。

手作業だからこそ生み出す味があります。

Mさんは従業員全員とのコミュニケーションを欠かしません。

「楽しいか?」

「髪切ったか?」

意味のある話が意味を成すのではなく、何気ないコミュニケーションがとてつもなく意味を成していくのかもしれません。


「お酢でも人でもコミュニケーションが大切」

お酢や従業員にこれだけの愛情を注げるMさんのお酢に敵うものはありません。


◯今、自由に選べるとしたら何の仕事をしてみたいか

「航空管制官」


未だにドラマがやっていると興味を持って見ているそうです。

飛行機も空港も大好きだと話すMさん。

「英語さえできていれば」

と笑顔で話すのもまた、Mさんの魅力だと感じました。


◯落ち込んだ時、どう乗り切るか

「妻に話す」


専務として奥様も一緒に会社を支えて下さっています。

奥様と結婚する際にMさんは

「家業をいずれ継ぐ。それでもいいか?」

と確認をされたそうです。

ご自分のことを「亭主関白」とおっしゃったその覚悟は、深い深い愛情に包まれていました。

護っているようで、護られている…

そんなステキなご夫婦。


◯発達個性を持った子どもたちへのエール

「得手不得手がある。見極める。

 …

 『得手』を伸ばせばプラスになる。

 好きなことを伸ばせばそれが個性になる。

 好きなことを早く見つけて。」


どうしても「不得手」に着目し自信を失ってしまいます。

そして、周りは「不得手」を無かったことにしようと躍起になります。

しかし、見るべきは「得手」の方です。

Mさんの職場では、発達個性を持った方が入社しているそうです。

何が向いているか!?始めは手探り状態だったそうです。

その中でその従業員の方は袋詰めの作業と出会いました。

あまりの速さに現場責任者は疑います。確認せずに袋へ詰めていると…。

しかし、誰よりも正確で誰よりも速かった。

「得手」に力を入れられるかどうかで、個人だけでなく全体の力も上げていきます。

一人一人の力が一つの企業の底力となっていきます。


◯インタビューをして

Mさんは家業を継ぐ前に大手企業に入社しています。

Mさんがご謙遜で言った言葉があります。しかし、私にとってその言葉はとても印象的でした。

「『知恵がない者は汗を出せ。汗がない者は知恵を出せ。』と言われてね。

だから僕は知恵がないから、汗流して働いた」

ちょっぴり乱暴のような表現なのかもしれません。

しかし、全ての者を大切にしている言葉のように私には聞こえました。

苦手なことを無理して取り組ませようとするのではなく、自分自身が

「できる!」

そう思えることに全力を出せばいい。

単純なことで、それを意外に実行できていない社会。

皆に同じことを求めている世の中。

新しい考え方が正しいとは限りません。

古き良きものから現代に生かせるものは沢山あるのだと思います。


「文化」

「文」と言う漢字はもともと「彩り」と言う意味を持ちます。

一人一人の個性が混じり合い、それが新たな彩りになった時、「文化」は生まれます。

個性を大切にするMさんの姿勢と思いやりに溢れる、プロがつくり出す「お酢」は、伝統と文化を感じさせる味がしました。


心の筋トレ部

教員であり公認心理師である片野とさとぶーが「心の筋トレ」を実務で実践させていただいています✨皆さんの自己免疫力💪を上げ‼️予病に貢献できるよう、情報発信していきます✨

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