100人のプロの27人目のプロ‼️
「初めまして。心の筋トレ部と言う者です」
「初めまして」
「私たちはプロの方100人を目指してインタビューをさせて頂いているのですが、ぜひYさんにインタビューさせて頂けないでしょうか?」
「100人の中に入れて頂けるのですか?有り難うございます」
…
言葉の力で、私たちの心を明るくさせたのは、
「活版印刷のプロ」Yさんです。
印刷屋さんのホームページを見た際に、こだわりを知り「ぜひに」と思い連絡させて頂きました。
活版印刷というと、昔の物のように感じるかもしれません。
今の印刷はオフセット印刷が主流で、すぐに何枚でも同じように印刷できます。
50年前は活版印刷が中心でした。
新聞社の印刷物で使用する文字の型は鉛でできていて、一文字一文字を組み合わせて印刷していました。
その活版印刷で印字された文字には独特の雰囲気をまとい、今も根強いファンがいます。
Yさんもその一人。
活版印刷の魅力と共に、様々なお話を伺うことができました。
◯子どもの頃の夢
「特にない。…普通の子どもだった」
お父様が始めた印刷屋さんを「継ぐぞ」とは思っていませんでした。
何となく「継ぐんだろうな」と漠然と考えたこともあったそうですが…。
とにかく将来を考えて過ごすと言うことはなかったそうです。
◯今の仕事に就いたきっかけ
「自然の流れ」
子どもの頃は落ち着きがなくよく注意をされていたそうです。
注意をされる際は、Yさんが矢面に立たされることがよくあったそうで…
Yさんへの注意が全体への指導につながっていたし、そのことへの理解もあったそうです。
反発心というものはありませんでした。
中学卒業後の進路は特に今ほど自由があったわけではありませんでした。
「あなたの成績は〇〇だからここの高校(大学)です」
「県外に出たいのなら、成績からすれば〇〇大学です」
ある意味で機械的かもしれませんが、別の意味では行った先で自分を探す…
というような具合。
今はあらゆる魅力に溢れた高校や大学ができて、同時に2つくらいは通ってみたいなぁと思わせるところが増えてきています。
それは進路を迷ってしまう原因になっているかもしれないのですが…。
少子化の中で学校が独自性を出して行った結果です。
Yさんの専攻は経営学科でした。
家業を継ぐ中でどう経営していくのか!?という視点での進路選択は多少あったかもしれません。
しかし、家業を中心に考えてそこにしたのではなく、「何となく」といった具合の方が強い感じでした。
在学中はとにかく楽しかったそうです。
授業に専念するというより、遊んでいたとのことでした。
大学卒業後の就職はすぐに家業!
ではなく、まずは名古屋の印刷会社に就職します。
3年間の勤務になるのですが、楽しくなかったそうです。
1年目は大学生活とのギャップ。
大学では楽しい毎日だったため、その習慣を抜くことが大変だったとか。
朝6時30分の電車に乗らなければならない。
帰りはほぼ終電。
また、休日もはっきりと決まっている訳ではありませんでした。
お客さんの都合に臨機応変に合わせる必要が出てきます。
3年間の外飯の期間の後、お父様の元へ。
特に干渉されることなく、自分がしたいように仕事に取り組んでいきます。
「したいように」というのは「好き勝手に」ではありません。
自分のポリシーを持った仕事という意味です。
家業にプラスになるような働きが求められます。
自分に厳しくないとなかなか難しいものです。
指示を待って、指示通りやればいいのならプラスαを生み出すことはできません。
しっかり、じっくりと考えることが重要になってきます。
Yさんの分野は「広告業」。
印刷業はお父様の担当でした。
広告を作成する時に行き詰まることも…。
定期的に街を散策しているそうです。
時には東京へ出かけることも。
仕事をするようになってからは街を見る「みかた」が変化していきました。
「こういう見せ方をするのか〜」
「こんな表現もいいなぁ」
お父様の会社を継いだ今も、宝の宝庫である街に出かけて刺激を受けていきます。
ある日のこと。
印刷業を営む方々の集まりがありました。
それぞれの方々と名刺交換をします。
そんな中、ある名刺に衝撃を受けます。
「活版印刷」された名刺。
印字された字に惚れ込んでしまい、すぐさまその方に
「自分もこういう印刷をしてもいいですか?」
と尋ねたそうです。
もちろん、その方も快諾。
大変なのはそこからです。
どういう機械を使うのか!?
どうやって使うのか!?
全くのゼロスタートです。
お付き合いのある印刷機を扱う機械屋さんに
「こう言う印刷をしたいんだけど…」
「それなら…ハイデルベルグ社のものかも知れないね」
「それ一つ」
お寿司屋でネタを注文するかのような滑らかなお願いに機械屋さんは…
「ないよ」
廃盤になっていたそうです。
でも機械屋さんはちゃんと気に留め、「ないよ」と言う言葉だけでは終わらせませんでした。
探して下さっていたようです。
その甲斐あって、たまたま名古屋に1台だけ眠っていた子と出会うことができました。
しかも、メンテナンスが充分にされている状態で。
「待っていてくれたんだね」
この運命の出会いを運命だとしっかり感じ取りました。
しかし…機械だけを手に入れても、説明書を読んだとしても、上手に印刷できる訳ではありません。
印圧の調整。
インクの濃さ。
紙によってその調整は変わっていきます。
最初の頃に印刷した印刷物を見せて頂きました。
充分商品として、出すことのできる見栄えでしたが…Yさんは
「今見ても恥ずかしい」
と言って全く満足していませんでした。
長年、印刷業を営んできているプロの眼は、活版印刷に妥協を許しません。
印圧が強すぎては裏面に凹凸を残すなどして影響してしまいます。
高さや設置を紙1枚刻みで調整していきます。
何度も何度も繰り返していきます。
その努力が
日本でここまでの印圧を調整できているのはうちくらいじゃないかなぁ
と言わせます。
「僕の主の収入源は広告業。この活版印刷は僕の趣味」
仕事のようで仕事じゃない。
まさに「生きがい」だからこそ、こだわりを持ち続け、誇りを抱けるのだと思います。
◯今、自由に選べるとしたら何の仕事をしてみたいか
「大工」
即答で答えて下さいました。
近くで大工さんの姿を拝見。
その時につくり上げていくかっこよさに感動したそうでした。
◯落ち込んだ時、どう乗り切るか
「ない。へとも思わない」
落ち込んだ時はないとのこと。
実際に腹を立てることや、悔しい思いをすることはあります。
しかし、怒られてもその人は自分のことを想って言ってくれていると思えるそうです。
せっかく言ってくれているのだから…まずは素直に受け止め、その後「自分には当てはまらないな」と思えば却下していきます。
それくらいの感覚で受け止めていくことは大切なのかも知れませんね。
◯発達個性を持った子どもたちへのエール
「のびのび行こう。
気にしない」
Yさんは、所属するライオンズクラブで特別支援学級の子どもたちを遠足に招待するボランティア活動を行なっています。
沢山の子どもたちが参加してくれ、とても有意義な時間とおっしゃって下さいます。
年々参加人数が増えてきたこともあって、分散しての招待にしているとか。
遠足のバスの外で待っていると、担任の先生が「行きたくない」と泣きながら言う子どもをバスに入れようとしていました。
「そんなに無理しなくてもいいのに」
そう思ったそうです。
行かなかったことで学べる「後悔」があります。
「成功」だけが成果ではありません。
成功の先には後悔はありませんが、後悔の先には成功があります。
より多くを学ぶためには、「自分で考える」と言う時間が必要。
ただ「合わせていく」のではなく自分なりのペースで自分自身と真剣に向き合っていく。
焦らずに、ゆっくりと。
◯インタビューをして
様々なお店で聞く
「商品は出ているだけです」
「ありません」
「わかりません」
本気で探していてもその言葉しか返ってこない。
まるで機械のような応答を聞くことがあります。
非常に寂しく感じる瞬間です。
あるホームセンターに行った時のお話です。
おばあさんが「この鍵の電池が欲しいんだけど…」
この言葉に対して
「車の鍵ですね」
と店員が応えます。
「家の鍵なんだけど…」
おばあさんが待たされた上に噛み合わない会話に少しイライラして
「わかる人はいないの」
と続けます。
店員は内線で
「おばあさんが車の鍵を家の鍵と勘違いしていて…私では対応できないので、お願いします…」
その内線で呼ばれた男性店員は、おばあさんの話も聞こうとせず、持っている物も見ようともせず
「わかりません」
「触れません」
「知りません」
そう言って追い返してしまいました。
私がおばあさんに話しかけ鍵を見せてもらうと確かに「家の鍵」でした。
もしマニュアル通りの接客ではなく、そのおばあさんの言葉を汲み取ろうとしていたのなら、結果は違っていたと思います。
Yさんは自分が「印刷したい」と思えるものでなければ活版印刷は受けたくないとおっしゃっていました。
それは同時にじっくりとお話をして、その方がより表現されるものを!
と思うからこそ、気持ちが入って情熱的になっていくからです。
マスクをして、表情が分かりづらい近年。
何を感じているのか知ることがより難しくなってきている近年。
…
だからこそ、私たちには「言葉」があるはずです。
表現が上手かどうかではありません。
コミュニケーションに「うまく」なんて必要ありません。
いつからなのか…
自分の気持ちを上手に伝える方法などと方法論にしてしまったのは…。
相手の話を汲み取ろうとする人と、相手に気持ちを伝えたいと思う人がいれば充分なんだと思います。
お客さんとじっくり話し合い、魂を込めて活版印刷を行うYさんがつくる名刺には、ひと文字からでも多くの想いが伝わってきました。
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