100人のプロの28人目のプロ‼️

あなたが一本の筆を手に取って、筆を下ろします。

硯で墨すり、筆にその墨を吸い込ませます。

どんな文字を書きましょうか…

11月も中旬。

そろそろ年賀状の準備を始めてみてもいかがでしょうか?

「謹賀新年」なのか「あけましておめでとうございます」なのか…

文字が多ければ多いほどに吸い込ませる墨の量は増えます。

…それくらいの量でいいですか?

子どもたちに、もっと自信を持ってもらいたくて始めたプロ100人へのインタビュー。

「子どもたちに」と思っていても、いつもいつも私自身が多くのことを学ばさせて頂いています。

本当に有り難いことです。

本日のプロは「筆づくりのプロ」Kさん。

小学生の頃から国語の授業で取り組んでいた「習字」の授業。

にも関わらず…

正しい筆の使い方を知らなかったことに私は気づいていなかった…


先ほど、墨を吸い込ませた筆を思い出してみて下さい。

あなたは筆をどこまで下ろしていましたか?


◯子どもの頃の夢

「ああなりたいとは思わなかった」


「夢」と言うもの自体を感じていなかったそうです。

とにかく遊んで過ごしていました。

遊びの中で、夢中になって何かをつくる時間が特に楽しかった。

山へ行き、木を切ったり竹ひごをつくったり。

竹ひごで鳥かごや普通のかごをつくったり…

自然との関わりが「夢」を考えねばならない不自由さから解放させてくれていたのかもしれません。


◯今の仕事に就いたきっかけ

「お父様からの言葉」


自然と触れ合いながら、育っていったKさん。

中学2年生の頃にお父様が体調を崩されたそうで…

お母様と一緒に農家のお手伝いを。

目の前のことで忙しく、高校への進学はせずに家業の手伝いをします。

自然と触れ合う農家のお仕事。

「ものづくり」としての農業。

しかし、なぜか違和感を感じていました。

お父様は腎臓を悪くされていたため、なかなか改善されないまま2年が経ちました。

ある時、お父様がKさんに

「継がなくていいんだぞ」

とおっしゃいました。

Kさんの様子から感じ取ったのか、どうなのか…

その言葉は様々な想いが込められた親心でした。

Kさんは内心「ホッ」としていたそうです。

家族を大切に想うからこそ!なかなか農家に対する違和感を言い出せませんでした。

親の想いに勝るものはありませんね。


継がない選択をしたものの、次なる仕事を決めていたわけではありません。

漠然と

「ものづくりをしたい」

という気持ちはありました。

どんなものをつくりたいかはハッキリしていませんでした。

身近にヒントは…

そう。

たまたま叔父さんは筆職人。

叔父さんが筆職人だったから、Kさんは17歳の頃に叔父さんのもとに弟子入りをします。

もし叔父さんが違う職人だったら、筆職人にはなってはいなかっただろうと振り返ります。

しかし、Kさんは筆づくりに魅了されていきます。


大工さんの世界では、棟梁の元に10年勤めると言うのが一つの区切りだそうです。

筆の世界は師匠に認められたら一人前になると言う感じで、区切りの年数が特にある訳ではありません。

ただひたすら目の前のことをとにかく熱心に。

筆づくりと自分に向き合い続けていきます。


ある時、近くの小学校で講師として招かれました。

その際、

「長年やってきて、嫌になったことはないんですか?」

と子どもに聞かれたそうです。

Kさんは

「ないです」

と答えました。

長年、筆と向き合い「嫌」になったことはありません。

しかし一度だけ、どうしようもないくらいの壁にぶつかったことがあるそうです。

年も近い先輩がつくる筆がとても素晴らしかったそうで…

「自分もあんなふうにつくってみたい」

その思いから何度も何度も挑戦します。

どれだけやってもどれだけつくってもそれを超える、それと並ぶ筆をつくることはできません。

次第に挑戦する心はイライラし始め、奥様に当たり散らしてしまいました。

奥様にあたり外へ出ると、幼い娘さんに

「どこかいくの?」

と声をかけられます。

咄嗟に

「うるさい!」

と言い、そんな暴言を吐く自分に驚きと嫌気が襲います。

すぐに車へかけ乗って、とにかく車で逃げ出します。

走る道のりで冷静に自分を振り返り…

気づけば一人で温泉宿に…

一人でいることに無性に寂しくなって…

奥様や娘さんへの想いは、電話という手段で二人に伝えます。

察した奥様は娘さんを連れてその温泉宿に。

家族みんなで久しぶりにゆっくり過ごすことができたそうです。

「八つ当たり」をしたのは後にも先にもこの日だけ。

難しいことを違う方面から見て考えることで「難しくて当たり前」という穏やかな心に変わるようになっていきました。


幾度となく訪れる山場をKさんは着実に乗り越え、経験へと変えていきました。

そして伝統工芸士となります。

それはKさんにとってゴールではありません。

あくまで一つの通過点です。


「筆」の魅力をより知ってもらうために、筆職人の方たちが店頭で直接お客さんとコミュニケーションを取る場が設けられました。

Kさんの元に一人のご婦人が…

「〇〇の字体のものを書くには、どちらの筆がおすすめでしょうか?」

字体の名前を言われても分からず、職人としてお客さんの前に座っているのに

「何も説明できなかった」

という猛烈な恥ずかしさと同時に新たな発見をしました。


筆職人さんは、習字を習いません。

習字は自分自身の書の癖が筆に反映されてしまうからと言われています。

その当たり前とされてきたことにKさんは疑問を感じます。

近くの駄菓子屋さんの一角のスペースを借り、筆の店頭販売を始めました。

それは…

「書家」さんに出会うためです。

どこで、誰に習うか…全くイメージができなかったので、まずはコミュニケーションを。

「考える」と同時に「即行動」。

その行動力が書家さんとの出会いを実現させます。

そして遂に書を習うように。

書を習い筆づくりは大きく変わりました。

「昔の筆が恥ずかしいくらい」と振り返るほどに。

学べば学ぶほどに知らなかったことに気付かされます。

「知らない」ことに出会います。

その分、自分の成長の幅へと変化していきます。

Kさんは


伝統は守らないといけない。けど、そのために進化し続けなければならない。


そう話して下さいました。

牛などの毛の質は昔よりも落ちてきています。

筆に使う動物の毛は、動物を筆のために殺しはしません。

肉などにされた動物の「毛」を無駄にはしない状態で筆に活用していきます。

現代の肉牛などは「より早く」成長させます。

じっくり育てるのではなく、効率よく育てることに専念していきます。

そのため「毛」の質は落ちていくそうです。


材料の質が落ちたから、筆の質が落ちてもしょうがない


ではありません。

材料の質が落ちても筆の質はむしろ上げていかなければ、10年前に購入したお客さんは10年前の初めて筆に出会った時のあの感激はできなくなってしまいます。

以前食べて「美味しい」と感じたものを何年後かに同じものを食べても同じように「美味しい」と感じなくなってしまうのと似ています。

伝統を守るだけでなく進化し続けていくから「伝統工芸士」なんだと感じました。


◯今、自由に選べるとしたら何の仕事をしてみたいか

「陶芸してみたい」


昨日も陶芸の催し物が行われていたみたいで、一つ購入してきたと「にっこり」とした表情で教えて下さいました。

「ゴールがない」ところに魅力を感じているそうです。

追究していく喜びは筆づくりとも重なるところがあります。


◯落ち込んだ時、どう乗り切るか

「落ち込まない」


Kさんはご自身の周りに嫌な人がいないとおっしゃっていました。

師匠の言葉に腹を立てる事とかはなかったのですか?と私は無理やり尋ねてみたのですが、Kさんのこの言葉を聞いて納得しました。

「相手が何を言おうと思っても、悪気はないかもしれない」

相手は相手で何か思って伝えていて…それがたまたま誤解を招き衝突が生まれてしまうのかも知れません。

最初から悪気で接したいと思っている人はいない。

常に笑顔で物腰柔らかな口調で接して下さるKさんでした。


◯発達個性を持った子どもたちへのエール

「自分の好きなようにしているのがいいのかなぁ。

 意地悪やこずるさはいけないよ。

 頑張るのはいい。

 でも頑張り過ぎない方がいい。

 疲れてしまうまでやらない方がいい。

 どんな子もその子。その子。」


自分に厳しくないとやれないKさんのお仕事。

自分との対話を大切に、常に向き合って、常に向上心を持ち続けて。

「頑張る」が心地いいと感じるものに出会えた時、想像以上の力が生まれてくるのだと思います。


◯インタビューをして

知らないことを知る。

大切なことです。


間違えたっていいじゃないか。

失敗したっていいじゃないか。

失敗しないために。

嫌な気持ちにさせないために。

そんなことを中心に考えてしまうことが多いように感じます。

できないこと、知らないことがあるってことは、それだけ成長できるってこと。

それだけ、自分の視野が広がったってこと。

成長し続けるから、面白い。


私は筆の使い方を知りませんでした。

筆の先だけをほぐして使い、使い終わったらキャップに入れ保管する。

時には新聞紙にくるんだりします。

でも…

本当は違います。

筆は全ておろすそうです。

キャップは捨てるそうです。

洗って乾かす時は筆の柄(軸)の部分に付いている紐を使って吊るすそうです。

知らないことを知った時、物の使い方は変わります。

大袈裟に言えば…

人生が変わります。

知らなかったことを受け入れる勇気を持った時、自分の世界は広がっていきます。

失敗を受け入れ、次なる成功への道のりを考える勇気を持った時、自分の可能性は広がっていきます。

正しい筆の手入れを学んだ時、書き味は全く違う物でした。

さてさて…

来年の年賀状はどんなふうに書かれますか?


心の筋トレ部

教員であり公認心理師である片野とさとぶーが「心の筋トレ」を実務で実践させていただいています✨皆さんの自己免疫力💪を上げ‼️予病に貢献できるよう、情報発信していきます✨

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