100人のプロの29人目のプロ‼️
2020年に「伝統建築工匠の技:木造建築物を受け継ぐための伝統技術」が無形文化遺産に登録されました。
ユネスコが登録したので、まさに世界に日本の伝統建築が評価されているということ。
その伝統建築工匠の技の中に「左官」はあります。
技の中に「建造物木工」や「畳製作」などもあるのですが…言われればすぐにピンとくる名称です。
しかし「左官」はもしかしたらご存じない方もいるかもしれません。
読み方は「さかん」。
「しゃかん」と私はよく言っていましたが、正しくは「さかん」と言うそうです。
なぜこのような名前になったかは色々な説があります。
それもそのはず…
なんと!
歴史は縄文時代まで遡るのです…
私たちにとって左官さんの作品は「日本」そのものと言っても過言ではありません。
左官さんたちは、建物の壁や床などを塗り仕上げていく方たちです。
私も以前、DIYとして少し経験をしたことがありますが、とてもとても難しい。
セメントをコテという道具で塗る際、均等に圧をかけていくのですが、少しの力加減で変化していきます。
力任せにグッとやっても思うようにはいきません。
まさしく「匠の技」。
本日は
「匠の技」
を持った「左官のプロ」Sさんにお話を伺うことができました。
世界が賞賛する技術とどう向き合うのか!?
こだわりはお客さんへの心と技としての誇りに満ちていました。
◯子どもの頃の夢
「寿司屋か左官」
11人兄弟という大家族の長男であるSさん。
家族のためにご飯を作ることもよくあったそうで、その影響で「飲食業」への興味がありました。
叔父さんがお寿司屋さんを経営されていたこともあって、特にお寿司屋さんへの意識が高かったのですが…
高校受験の際に担任の先生が
「長男なら継げ」
とアドバイスがあったそうです。
それも左官への道を選択する一つの出来事でした。
◯今の仕事に就いたきっかけ
「生活の一部」
お父様の存在はSさんを左官職人へと導く大きな存在だったのかも知れません。
お父様は決して
「後を継ぎなさい」
とおっしゃった事はありませんでした。
しかし子どもの頃からお父様と共に、左官のお仕事をしたり、畑のお手伝いをしたりと…
家業が生活に根ざしていました。
中学卒業の際、周りの友人たちは高校へ進学していきます。
Sさんはというと…高校への進学ではなく左官を基礎から学ぶために職業訓練所へ。
「取り敢えず高校に行っておく」
そんな風潮がある今ですが…
やりたいことを的確に決めて「取り敢えず」で過ごさない姿に、憧れる中学生も多いと思います。
職業訓練所には様々な年代の方がいたり、自分と同じように左官さんの息子と言う人たちが3名程度。
令和の現代では、左官さんは成り手が減少してきているとニュースで聞いたことがあります。
私が
「左官を目指す子どもたちは成り手が少ない今がチャンスですね」
と単純な発想で発言。
Sさんの返事はいつもの笑顔では返ってきませんでした。
実は…
Sさんの同期は、今では全員辞めてしまったそうです。
「自分は左官を理解しているハウスメーカーさんとやらさせてもらっているけど…
そう言うのがないと大変だよね」
…
家を建築する時、壁はどうしますか!?
今は当たり前のように「クロス(壁紙)」を基本に考えます。
クロスではなく伝統的なものを左官さんにお願いすると、クロスの3〜4倍はお金がかかってしまいます。
玄関はどうしますか!?
土間はどう仕上げますか!?
…
玄関や土間についてですが、玄関はモルタルにしたいと言う若者が増えてきているそうで。
土間は徐々に流行ってきてはいますが、どうしても家の収納や形を中心に考えて、土間を節約で省略してしまう物件が多いそうです。
また、左官さんのお仕事は肉体的にもかなりハードです。
Sさんは若い頃1日にダンプカー5杯分のセメントを練ってつくっていたそうです。
私は、DIYでセメントをバケツ2杯つくっただけでもゼェゼェ言う状態。
左官へのこだわりやニーズ、肉体的なことを考えると…
なかなか「左官」をお薦めすることができなかったのかも知れません。
Sさんは2代目。
お祖父様は宮大工だったのですが、
息子に対して同じように宮大工を!
ではなく、敢えて「左官」をやるようアドバイスをしたことでS家の家業となりました。
Sさんの左官には歴史があります。
時代の流れであったり、利便性であったり…そんな簡単な理由でお仕事を選択していません。
家業と向き合い、左官の魅力を知っているからこその選択。
今が「チャンス」なのではなく…
やる気があるのか!?
ないのか!?
「好きだ」と思えるのか!?
思えないのか!?
「やりたい」と思えるのか!?
思えないのか!?
この問いに答えが出せた時、初めて左官をやる「チャンス」なのかも知れません。
◯今、自由に選べるとしたら何の仕事をしてみたいか
「また左官。嫌いじゃない」
家業だから、長男だから継がなきゃいけない
そんなふうに「義務」として捉えていたのではなく、「魅力」なのか「奥深さ」なのか…
どちらにしてもSさんにとって達成感を味わえる、自分自身の一部となっていました。
◯落ち込んだ時、どう乗り切るか
「大丈夫」「頑張れ」と言い聞かせる
左官業は自分との闘いになってきます。
妥協を許せばいくらでもできてしまいます。
しかし、どこに自分の「やりがい」というものをつくっていくのか!?
「いい仕事ができた」と実感した時の達成感は違ってきます。
時には力を入れて、時には敢えて力を抜くという絶妙なバランス。
また、季節によっても作業工程は異なってきます。
自分との闘いに負けない作品を仕上げていく Sさん。
自分への声かけは、よりよいものをつくり上げるための技でした。
◯発達個性を持った子どもたちへのエール
「自分の好きなことをやれば楽しくなってくる。
見つけるのは難しいかもだけど。
一生懸命やったら繋がっていくんじゃないかな」
好きなことや興味のあることにまずは取り組んでみる。
自分にどんな可能性があるのかは、挑戦してみなければ分かりません。
◯インタビューをして
「洗い出し」と言う工程があります。
セメントモルタルから小石が浮き出ているような仕上がりにする伝統的なあの技法です。
以前、私の実家もエクステリアの業者の方が玄関先に「洗い出し」を行いました。
完成を見ると、いくつかの線のような跡が不自然に残っていました。
「洗い出し」に薬品を使用するようで…
その薬剤が流れた跡の線でした。
修繕をお願いすると…
「様子見でお願いします。やり直すのはかなり経費がかかってしまうので…」
…
結果的には、やり直して頂けました。
なので、Sさんが
「洗い出しで満足できない時はね、最初からやり直すんです。でもお客さんに『あいつ失敗したんだな』って残念に思われるのが申し訳なくてね」
とおっしゃっていたことに驚きました。
エクステリアの方の多くは「洗い出し」を行う際に薬品を使用しますが、左官さんは全て手作業で行います。
もちろん、見た目は全く異なってきます。
心の筋トレ部の事務所の土間がとてつもない技術であったことを知りました。
当たり前のようにそこに土間はあるのだけど…
見た目もよく、家全体の雰囲気にとてもピッタリで…
散歩から帰ってくると、なぜだかその土間でちょっと一服。
本当は、ハウスメーカーの本社から「やらないでほしい」と言われていた技術。
その技術を知らない人は、全く問題のないはずの耐久性だけをもって反対するのでしょう。
しかし担当の営業の方が、Sさんへの尊敬の念から「Sさんの好きな方を選択して下さい」と言ったそうで。
なので、あの土間は存在します。
「工匠の技」を安易に現代の『ことなかれ主義』に当てはめてはいけません。
歴史があり、先人たちの知恵と技術、そしてSさんの気持ちがこもった作品に勝るものはありません。
芸術家たちに「解釈をする人たちに配慮しながら作品を作れ」と言って名画は生まれません。
挑戦しなければ伝統は築かれません。
Sさんのこだわりある仕事。
一塗り一塗りに気持ちを込めて、生活する方を想い仕上げて下さいます。
プロの仕事に邪念はありませんでした。
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