100人のプロの53人目のプロ‼️
たかがマスク。
されどマスク。
私はマスクに翻弄された。
マスクのために、戻ることのない3分を失ってしまった。
5月8日から多くの会社でマスクの着用は緩和されました。
学校でも、4月からマスクが自由裁量となり、教員は「子どもたちの笑顔を見るため」に率先して外すようになっていました。
緊張で迎えたインタビュー当日。
私たちがインタビューする際に特に意識しているのは…
「時間」です。
当たり前の話ですが、お忙しい中お時間を作って下さったことに対する礼儀として、「時間」には細心の注意を払っています。
早過ぎても失礼になると思い、絶妙なタイミングを狙って伺います。
いつも現場には30分前に到着しているので、遅刻の心配はありません。
持ち物の確認をし、身だしなみのチェックして時間を過ごします。
今回は待ち合わせの場所から少し離れている所に車を駐車しました。
なので、少し歩くことを計算に入れ出発します。
待ち合わせの場所まであと15歩…
たまたま周りを見渡します。
マスクをした女性が歩道を歩いていらっしゃいました。
「ハッ」
となり荷物を確認します。
準備したつもりになっていたマスクが見当たりません。
急いで車まで戻ります。
そしてさらに急いで待ち合わせの場所まで向かいます。
着いた時には担当の方が外で待って下さっていました。
「いいですよ。ゆっくり来てください」
お優しい言葉。
「マスクは着けた方がよろしいですか?」
荒い呼吸を続けながら担当の方に伝えます。
「いいですよ。5月8日からわが社も自由になるので…外して行いましょっか」
そう言い、担当の方が私たちを応接室へと案内して下さいます。
そのすぐ後に社長が来室。
私たちの姿を見るなり、「サッ」とマスクを外します。
社長が外した後に、担当の方たちも自然に外します。
相手を気遣うさりげない動作がその場では沢山みることができました。
走った私の額は汗を浮かべ、緊張なのか焦りなのか、言葉が上手く出ていませんでした。
それでも社長は、真剣にお話を聞いて下さり、心を込めて答えて下さいます。
そのお姿に今一度、自分の行動を振り返り、反省をします。
社長のとても温かいお人柄に「相応しい自分でありたい!」と自然に思えたから。
今回のプロは「カリモク家具株式会社のプロ」加藤さんです。
「カリモク家具」は日本の家具業界、最大手の会社。
その会社の社長、加藤正俊さんが「プロ100人」のインタビューに応えて下さいました。
◯子どもの頃の夢
「野球選手」
部活もやり、日夜トレーニングに明け暮れて…
そういうわけではありませんでした。
「いいなぁ」と感じ、自由な発想で憧れていたそうです。
お父様たちは子どもの夢や希望を尊重してくれる方だったそう。
◯今の仕事に就いたきっかけ
「司法試験が難しかったから」
豊かに暮らしたい!
そんな漠然とした思いがありました。
加藤さんにとってその思いを叶えるものが「弁護士」でした。
勉強を重ね、試験に挑み続けます。
現代では、弁護士の人数を増やすためにと試験のシステムは変わりました。
しかし、当時の司法試験の合格率は1〜2%という狭き門。
ある程度の年齢になれば、皆が別の道へと進路を変えていきます。
加藤さんも司法試験への挑戦に区切りをつけます。
今となっては、その区切りは正解だったと振り返ることができます。
加藤さんにとって別の道が、家業であるカリモク家具販売(旧社名)の入社でした。
家が大きな会社だと
「最終的に守られてていい」
と思われる方もいるかもしれません。
しかし、家業に勤めるということは、決して楽なことではありません。
新入社員の時から創業家として大きな責任を背負い、発信する言葉や行動が見られていきます。
入社初日の先代社長の挨拶では、加藤さんを指して
「次期社長になる」
と宣言されてしまいます。
同僚であったり、先輩であったりは1週間もあれば身の上話を始め、距離を縮めていくものですが…
加藤さんの場合、周りは距離をとっていきます。
警戒心からなのか…
猜疑心からなのか…
入社して少し経った頃、お正月の展示会がありました。
全国5ヵ所を巡回する大きな企画です。
その際の搬入、搬出を担当していきます。
一人では運ぶことができないものばかりなので、何人かと協力して一緒に運んでいきます。
作業を重ねるうちに、加藤さんの温かな性格と、気さくでユーモアのある話し方は、次第に周りの心を溶かしていきました。
人間関係は「つくる」ものではなく「できる」ものだと、加藤さんのエピソードを伺い気付かされます。
加藤さんの社長就任と共に、家具を取り巻く環境は大きく様変わりしていきました。
結婚する際に結納(婚約のしるしとして品物を交わすこと)のお返しを含めて、お嫁さんが嫁ぎ先で困らないよう、家具を購入する「婚礼家具」という風習はご存知でしょうか?
こうした風習は、生活スタイルの変化から徐々に見られなくなってきました。
同時に、市場には安価な輸入家具が台頭してきます。
時代の変化に対し、経営の舵取りは非常に難しい。
この状況下で、加藤さんは敢えて創業当時から製造されていた家具を販売する「カリモク60」を企画します。
ただ昔のものを製作して販売していればいい訳ではありません。
「カリモク60」では、コストもパフォーマンスも更に向上し、「普遍性」の価値を追及していきます。
「普遍性」の中でも時代に即し変える部分があれば、絶対に変えてはいけないものもあります。
「昔」の形を維持しながら、目には見えぬ「プライド」や「誇り」や「尊敬」などの想いを込め、大切に製造していきます。
評価の言葉は変化していき、「レトロ」と言ってみたり「ノスタルジー」と表現してみたり…
そのものへの価値は変わらず評価され続けます。
いいものは、やはり「良いもの」。
「良いもの」は想いが違います。
◯今、自由に選べるとしたら何の仕事をしてみたいか
「骨董商」
自分で仕入れて、自分で売って、自分で完結することをしてみたいそうです。
今の自分は「これをやりたい」と思っても、それを部下たちに「丸投げしているだけだから」とおっしゃっていました。
それだけ社員の方たちや、部下の方たちのことを信頼しているのが伝わってきます。
インタビューに同席して下さっていた広報担当の方が会話の隙間にサラッとおっしゃったことが印象的です。
「丸投げとおっしゃいますが、社長は私たちの傘になって下さっている」
ご自分の功績はおっしゃらず、部下への感謝の言葉だけを発する加藤さん。
社長のしてくださっていることにちゃんと気づき、そのことへの感謝の気持ちを表現する担当者の皆さん。
見習いたいと思うことが沢山あります。
◯落ち込んだ時、どう乗り切るか
「寝る。友人と話す。大きく息を吐く。」
経営者として、落ち込み続ける訳にはいきません。
次に切り替えていく必要があります。
加藤さんに、落ち込んだ内容について伺いました。
社員の体調不良やご不幸があった時。
迷わず、そのことを伝えて下さいました。
会社というと、社長と社員の距離は見えないくらいに程遠いイメージがありました。
社員に何かあっても、社長の耳には届いていないだろうし、届いたとしても大勢の中の一人で、意識されていないのだと勝手なイメージを持っていました。
カリモクの加藤さんは全く違います。
社員が元気であること、幸せであることを社長自ら考え、何かあれば心を痛めていました。
私が
「社長がそう思ってくれているだけで、幸せですね」
というと、加藤さんは
「何もしてあげられていない」
とおっしゃっていました。
コロナ禍だった頃、人と人との関係が薄れ、孤独を感じる方もいたかもしれません。
表情が見えないことで感情が伝わりづらく、誤解を招くことがあったかもしれません。
でも、心にマスクをせず、社員のことを大切に考えるお気持ちは、常に変わることはありませんでした。
支えているようで支えられている。
支えられているようで支えている。
どんな努力と労力で「今」があるのかを、新入社員として働いたことがあるからこそ知っています。
カリモクさんの家具に癒される理由は「技術」と「心」がこもっているからだと思います。
◯発達個性を持った子どもたちへのエール
「個性を活かす、活躍の場はそれぞれある。
近所にもニコニコしている子がいる。
活躍を祈念しております」
映画監督のスティーブン・スピルバーグさんも発達個性を持っている人物。
子どもの頃にできないことを周りに言われながらも、自分の可能性を信じた方です。
そのスピルバーグ監督の話をしながら贈って頂いたエールでした。
スパイ映画でお馴染みのトム・クルーズさんも発達個性を持っています。
まさに、活躍の場はそれぞれ。
みんな同じ場では…面白くないですもんね。
◯インタビューをして
風習の変化や輸入品の増加に伴い、小売店の多くは経営が芳しくなく、お店を閉めざるを得ない状況が続いています。
一方で…
四国のある家具屋さんでは連日、お客さんが来ているそう。
それぞれがそれぞれのやり方を駆使し工夫を凝らしていきます。
時代が変わり、環境は変わり、物事は変化の毎日。
今日と同じ日は二度とないように、変化にただ流されてしまいそうになる現代において、「普遍性」が生み出す価値は、旅の目印として北の空に浮かぶ星のよう。
人生の船出が近づく子どもたちにも、変わらぬ個性を自分の目印にして欲しい。
そう願うばかりです。
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