100人のプロの55人目のプロ‼️
「お陰様」でこの度もインタビューをさせて頂きました。
本当に有り難いことです。
「お陰様」という言葉。
漢字に「陰」が用いられているのは、
「目には見えぬ出来事」
を表現するためだとか。
もうすぐ私の祖母の命日。
亡くなって30年くらい経ちますが、未だに祖母の話が家族との会話で出てきます。
「おばあちゃん語録」
が、生活の端々にひょこっと顔を出すかのように。
祖父や祖母からの教えは今も大切に。
そして感謝の気持ちでお仏壇に手を合わせます。
目には見えぬ存在でも、手を合わせることで近くに感じます。
自分たちの代で墓じまいをする家庭が出てくる昨今。
時代の変化と共に、家にお仏壇がない家庭も増えてきています。
ご先祖様に対する尊敬の念としてのお仏壇。
昔は親戚一同が集まったり、ご近所に仏壇開きをする慣わしがあったりして、より豪華なものを用意していましたが…
年々そうした風習も変化していっています。
お墓やお仏壇は、自分が歴史から繋がっていることを示してくれる証のようなもの。
社会科で歴史を学ぶ意味は、日本人としての自分を知るためでもあります。
海外にも歴史の授業があり、大切にされています。
今の時代だからこそ、伝えていきたい大切な伝統や歴史があります。
その思いがご縁を結んでくれます。
「表金具のプロ」Kさん。
表金具は「名古屋仏壇」の装飾として使用されていきます。
「名古屋仏壇」は伝統工芸品の一つ。
名古屋仏壇が製作されるまでには8業種の匠の方々が関わっていきます。
それぞれの工程でそれぞれの技術が光り、一つのものがつくり上げられていきます。
一つのお仏壇にも目には見えぬ様々な方々が関わっています。
大切な工程である「表金具のプロ」Kさんに、お話を伺いました。
◯子どもの頃の夢
「プロ(スポーツ選手)」
夏は野球を、冬はサッカーをやっていたこともあって、その道のプロになれたらいいなと思っていたそうです。
でもそれは、みんなも同じように思っていたレベル。
特別に何かしていたわけではありません。
子どもの頃はスポーツだけでなく、絵の教室にも通っていたそうです。
よく学校では賞を取ったり、地域から表彰されデパートに飾られたりしていました。
昔から絵が得意だったから、家業である表金具を継いでいったのかと思ったのですが…
「自分に絵の才能がある」
とは感じていなかったそうです。
なぜなら、飾られた自分の作品を見にデパートへ行けば、
「もっと上手い人はたくさんいる」
と感じて帰ってきていたとか。
その感想は決してネガティブではなく、Kさんらしい雰囲気のもの。
冷静に物事を見て、それに一喜一憂するのではなく、それはそれとして捉えていく柔軟な思考。
Kさんのユニークさやユーモアさに私たちは終始やられていました。
◯今の仕事に就いたきっかけ
「お父様の存在が分かった」
小さい頃からお父様のお仕事をされている姿は見ていました。
少し手伝ったりすることもあったり、道具を見る機会があったり…。
だから特別な技術と感じたり、伝統工芸をすごいと感じたりはなく、暮らしの中の一部でした。
Kさんは大学へ進学し、公認会計士の勉強を。
そのまま何も起きなければ、きっと公認会計士になっていたのかもしれません。
Kさんが大学生の頃、ご実家が火事になってしまいました。
幸い、ご家族に怪我はありません。
しかし、制作していくための道具を失ってしまいました。
火事を知った職人仲間の方たちが来て下さいます。
一人、二人…と更に続き、多くの方々にお父様は慕われていたことを、初めて知ります。
仲間の方々は道具を分けて下さったり、声をかけて下さったり。
Kさんにとって、家業が当たり前ではないことを痛感します。
「職人としてちゃんと仕事している」
「尊敬されている」
身内だと気づかない当たり前のことにも気付かされます。
「護っていかないとなくなってしまう」
そう実感した時、自然と自分も作業場に。
「継ぎます」
という大きな決意表明したとかではなく、
「知っておかないと」
という純粋な感情。
みよう見真似で、お見舞いに来て下さった方々から頂いた道具を使い、作業をしていきます。
自然とお父様から頼まれるようになって、それをこなしていきます。
バイト感覚でやっていたのが、いつしか「お給料」という形になって。
自然と大学も辞めていて。
伝統工芸士も「取らなきゃ!」という思いではなく、「せっかくだから取っておこうか」という感じです。
筆記試験も実技試験もあります。
実技試験では経済産業省から視察に数人来ますが、Kさんはいつも通り過ごします。
決して自分を飾らない方。
ご実家の火事を経験して、
「いつ何が起こるか分からない」
と意識するように。
だから若い子が
「老後のために貯蓄することが生きがいです」
とインタビューに答えているのを見ると、
「しっかり『今』も大切にしてほしいなぁ」
と思うそうです。
貯蓄にとらわれ、お金を使わなかったら、日本の経済は回っていきません。
その考えを奥様にも伝え、ご夫婦で車を買い替えることを計画していきます。
今は車を購入しようとしても、さまざまな部品の品不足で、すぐには手に入りません。
やっと奥様の購入した車が届き、「今」を大切にしています。
一方Kさんは、言い出してから3年の時が経ちますが…
未だ契約すらしていません。
どの車にしようか、悩んでいるそうです。
「若い子は〜って言ってるけど、私もそうでした」
真顔で話すKさん。
真剣にお話をしていたKさんの唐突な最後の言葉に、私たちの笑いは止まりません。
それもKさんの魅力の一つです。
◯今、自由に選べるとしたら何の仕事をしてみたいか
「絵描いたりしたい。何かつくっていたい」
考えたことはなかったそうです。
絵がお好きということで、表金具を製作する時のデザイン画を見せて頂きました。
やはりとてもお上手で。
でもKさんは必ず
「誰でも描けます」
とおっしゃいます。
賞を受賞しようとも、デパートに飾られようとも、一番厳しい審査をしているのはKさん自身。
だから、磨き続けられるのかもしれません。
◯落ち込んだ時、どう乗り切るか
「落ち込まない」
Kさんらしいストレートなお答え。
しかし、そのお答えに意味があります。
お仏壇を購入しない人たちが増えている昨今では、工芸士の方々にとって悩ましい問題。
仕事が来なければ、収入もありません。
昔の忙しかった姿を知っているだけに、現状とのギャップに焦りを感じます。
しかし、Kさんの捉え方は異なります。
自分の技術のせいで売れなくなっているのなら、反省すべきで考えるべき問題。
しかし、売る人は別の人たちで…
その人たちの仕事を、自分の仕事のように捉え、考えることは、その人たちの仕事を奪っているのと同じこと。
まさしく、ご自分の問題と、他の問題をしっかりと分け、ご自分のできることを最大限力を込めて行っていく姿勢。
不安は伝播していきます。
またそれを無意識に煽ってしまう人たちもいます。
そんな時代だからこそ、Kさんのその捉え方は必要なんです。
◯発達個性を持った子どもたちへのエール
「小さい時は苦しいことはあるかもだけど…
時間、年数が解決してくれる。
いろんな仕事があるんだから、その子にあったことをすればいいんじゃないか」
片付けられていないとおっしゃる部屋を指差して
「僕も発達個性を持っていると思います」
とおっしゃっていました。
誰でも
「これができていない」
「あなたはダメ」
「みんなと違う」
と強調され、言われ続ければ、自信を無くします。
やる気を出す方向さえ、見失います。
他からの評価は、「私の問題」ではなく…
「私の問題」は、自分を信じてあげられるかどうか!?
かもしれません。
◯インタビューをして
Kさんが得意としているのは「すかし」という技術。
銅板などに模様をつけていくために穴を開けていきます。
曲線の模様だったり、複雑なものだったり…
その際に、継ぎ目が分からないよう穴を開けていきます。
最終的にやすりをかけていけば、つなぎ目には気づきづらくはなりますが、出来上がりは異なっていきます。
「すごいですね〜」
と私が驚いていると、その横でKさんは
「機械でもできてしまいます」
とおっしゃいました。
それでも、更にご自分の技術を磨き、機械にはできないレベルを突き詰めていきます。
伝統産業の危機は工芸士の問題ではなく、日本全体の問題であり、日本の危機ではないでしょうか。
多忙な毎日に、伝統を触れる心のゆとりがなくなってきているのか!?
伝統の大切さや価値を伝えられていない学校の責任なのか!?
少なくとも私の職場では、子どもたちが「伝統」に触れる機会はありません。
繋いで来て下さった目に見えぬ方々の功績が、日本にはまだあります。
「ある」ことが当たり前の時代ではなくなってきたからこそ、次の世代へと必ず繋いでいきたい。
それが子どもたちにとって、可能性となるように。
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